小児循環器看護Q&A

子どもがスペル発作を起こした際に、看護師の対応を教えてください。蹲踞の姿勢をとるのはなぜですか。

スペル発作は、ファロー四徴症のような大きな心室中隔欠損と肺動脈狭窄(右室流出路狭窄)がある疾患でおこります。本来別々の経路である身体への血流と肺への血流が一緒になっている状態で、交感神経が興奮することなどによって右心室から肺動脈へ流れる道(右室流出路)にある心筋が攣縮し、肺血管にいく血流が不足して低酸素になる状態のことです。 そのため、対応の基本は、肺への血流を増やす(そのためには、身体への血流を減らすこともある)ことになります。酸素投与は肺血管を広げて肺血管抵抗を下げる(血液が肺へ流れやすくなる)という作用がありますし、身体に取り込む酸素濃度を直接上げますので、最も優先される対応になります。 蹲踞(膝胸位)は、身体に流れる太い動脈を狭くして血管抵抗を上げることによって血液を身体に流れにくい状態にして、その分肺に流れるようにするということが期待できます。[ 2022.9 ]

先天性心疾患の看護について、覚えることがいっぱいでどこから手をつけてよいかわかりません。よい方法がありますか?

先天性心疾患の子どもの看護は、病態や成長発達、治療方法、看護技術、家族の支援など、覚えることがさくさんあり大変ですよね。ファロー四徴症など、特徴のある病気もあれば、もっと複雑な血行動態の子どももいますし、病気の治療や時期によっても看護の視点は異なると思います。最初からすべての血行動態を覚えることや過去の治療すべてを覚えるのは難しいので、例えばたくさんある疾患名の最初に書いてある疾患や、途中経過の治療(例えば、DORV、グレン術後など)大まかに疾患や治療内容について情報を得て、今回の治療方法や看護についてイメージを持てるとよいのではないかと思います。また、正常な心臓の血行動態や、心臓の圧力差や循環血液量などの基本を思い出しながら、子どもの血行動態が、なぜそのようになるのかを考えていけるとよいと思います。[ 2022.9 ]

手術を受ける子どもをもつご家族の不安に対してどのようにかかわったらいいですか。工夫や配慮を教えてください。

手術を受けるこどもの親が、生命の危機を迎えるのではないかという思いを抱くのは当然のことだど思います。まずは、その思いの中の恐怖や心配を受けとめることが必要だと思います。そのうえで、思いを整理できるような関わりができるとよいのではないかと思います。恐怖や心配といった感情の中にいると、まだ起きていないことにも思いを巡らせて、不安が強くなることがあります。そのようなときには、今までの危機を乗り越えられている事実を再度共有し、これからどのようなことがあるのか正しい見通しをお伝えできると、不安な思いを整理する一助になるのではないでしょうか。[ 2022.9 ]

病態や術後の循環がどうなっているのか理解できていないため循環器系の看護に不安があり苦手です。学習を進めていくコツやポイントを教えてください。カテ子ネットの小児看護専門看護師に聞いてみたいです。

CNS 1
 理解したい・不安と感じられているその感覚があれば、どんどん学びを深めていけるのではないかと思います☆彡 私は、小児循環器は暗記などテスト対策のような学習の仕方をしない方がよいと思っています。疾患を覚えようとすれば、限りなくある先天心疾患の理解は果てしない時間を要すると思います。ですが、心臓は、たった4つの部屋と弁、2つの動脈と2つの静脈しかないのです。・・・超、単純(笑)!あとは、圧力が高い方から低い方へと血液は流れる事さえわかれば、多くの状態をイメージできるようになります。 パズルみたいなものです。 とはいっても、難しいことも多くあるかと思います。周囲の先天性心疾患を好きな先輩・仲間は、きっと、その魅力と共に色々なことを伝えてくれるはずなので、一緒に「何故、こうなるのか」を考えていくことができれば、楽しさ・理解が深まることと思っております。カテ子ネットも是非是非、ご活用ください! 
CNS 2
私も学生時代は循環器系が苦手でした。実際に看護師になり、希望していない小児循環器疾患領域で働くようになっても、最初は何が何だかわからなくてパニックでした。今から思えば、それは疾患や術式ひとつひとつを別々に覚えようとしていたからだと思います。私は、手術前や姑息術後は、肺血流増加型疾患なのか、減少型疾患なのか、を考える癖を、心内修復術後は術後心不全に陥らないように、どの部分のどんな負荷(前負荷・後負荷)を軽減させればいいのか、を考える癖をつけるようにしました。そして、目の前の患者さんとこれまでに受け持った患者さんと同じところはないか、を考えるようにしていました。そうすることで、小児循環器疾患看護の原理原則がつかめるようになったように思います。わかれば、とっても面白いし、好きになると思います!一緒にがんばりましょう!
CNS 3
①先天性心疾患の血行動態は個別性が大きいため、大変ですがその子その子の心臓の絵を描いていき、それを積み重ねることで地道に理解していくことが、苦手意識をなくすための最も近道かなと考えています。
②まず、その子どもの手術前と手術後の心臓の絵を描きます。これは、正常の心臓の絵に描き入れるでもいいと思います。
③その絵を見て、主に「どこがどのように変化しているのか?」「左心室・右心室の心負荷がどのように変化しているのか?」「肺血流量がどのように変化したのか?」について理解します。
④小児循環器医に聞かないとわからないことも多いと思うので、間違っても躊躇せず血行動態について教わるといいと思います。また、子どもや家族への面談、診察などに同席する機会があるとわかりやすいです。〔2022.9〕

術後の子どもの看護について質問です。心室中隔欠損症の子どもは退院後に生活の制限等はありますか。退院時の子どもやご家族にどのような指導や外来時の看護について教えてください。

手術直後内服が必要な期間は、開心術の影響による心不全が悪化する可能性はあるので、その徴候を保護者に説明し理解できているか確認することが必要です。術後が経過し合併症がない場合は生活の制限は無くなっていきますが、本人の成長発達に伴い保護者が不安なことや困っていること、本人がしたいことなどを外来で相談できるよう雰囲気や関わりに配慮しています。心室中隔欠損が遺残した場合は感染性心内膜炎の予防が継続して必要となります。[ 2022.9 ]

フォンタン術後の看護について質問です。フォンタン術後の子どもが息止めをするような動作は禁止されることが多いですが、エビデンスを教えてください。

潜水や管楽器(トランペットなど)息を吐き続けるまたは息止めは、肺血管抵抗を上げ引いては低心拍出症候群を引き起こすことになります。また、胸腔内圧が上がるため迷走神経反射が起こり不整脈を誘発します。そのため、フォンタン術後だけでなく、肺高血圧症の子どもも潜水は禁忌となります。[ 2022.9 ]

幼児に対する水分制限はどうすればいいですか

まずは、「何故その水分制限が必要なのか」「尿量(アウトバランス)と輸液(水分以外のインバランスの必要性)との兼ね合い」をアセスメントすることが必要です。そして、幼児の発達にあわせて、その子どもや家族に水分制限の必要性を説明することが大切です。
一日にどの位の水分摂取ができるのか確認し、本人や家族と一緒に1回の摂取量や飲むタイミングなどの計画をたてると良いと思います。
利尿剤を使用している場合などは口渇も強くなるので、可能であればゼリーやアイスクリームなどで口渇を軽減できるような配慮をしてもよいかもしれません。

心電図がよめずに不安ですがどうすれば良いでしょうか

心電図の読解は経験を積んでも難しいものです。まずは、正しい電極の装着の仕方などの基本を学んだうえで、①「正常の波形と速さ」、②その子どもの「平常時の波形」、③その子の「平常時との違い」と、段階を経て理解することが大事です。その上で、致死的な不整脈などの異常な心電図を把握し、人を呼ぶなどの行動をとることができればよいと思います。これは異常な心電図かもしれない、と思えたその感覚が大事なことです。是非その時のモニターを記録に残しておいて、あとで先輩看護師や医師と読解してみましょう。

泣かしちゃいけないって言われるけど泣いてしまうんですけど、どうしたらいいですか

赤ちゃんが泣くのには理由があります。オムツ汚染などで不快なのか、空腹なのか、人肌を求めているのか・・・通常の赤ちゃんの欲求を満たした上で、先天性心疾患の赤ちゃんの場合は、呼吸困難含めた心身の苦痛も検討しましょう。不快を取り除く行為をした上でも不穏状態のような啼泣が続き、循環状態が保たれないようであれば医療行為による鎮静も必要になるかもしれません。

乳児の血圧が測れません

赤ちゃんは血圧が低いので、聴診器を用いた血圧測定では脈の音が聞きにくいですよね。最初は音が聞きにくいかもしれないので、触診やドップラーを用いるのも良いでしょう(その場合、収縮期圧しか分からないため、そのことを明記しましょう)。赤ちゃんが嫌がって動いたりすると、聴診器が上手く血管にあたらないこともあります。測定する間だけ、肘に手を添えて関節を伸ばし、上腕動脈がぴんと張るように保持すると、拍動が触れるのがわかります。この状態で聴診器を置いて測定してみるとよいでしょう。また、血圧測定ができない場合は、足背動脈を触知できるかどうか、上腕の脈の触れ方と足背動脈の触れ方に違いがあるかなどの情報も大切になります。

足背動脈がみつけられません

脈を触知するときは、人差し指ではなく、より感度の高い中指と薬指で触れる方が触知しやすいことが多くなります。また、普段あまり用いない利き手ではない側の指の方が感度が高いこともあるので、試してみても良いでしょう。
指で触れることが難しいようであれば、ドップラーを用いて脈が触れることを確認してみる方法もあります。血管の位置は動かないため、触れにくい血管の位置が確認できたら、その時にテープやペンで血管の位置をマーキングしておくことで、継時的に動脈触知の確認がしやすくなります。

カテーテル検査後に足背動脈を確認するのはなぜですか

カテーテル検査では、鼠径動脈を穿刺していることが多いため、カテーテル侵襲による血管内の血栓や、圧迫固定による血液のうっ滞を確認するために、下肢の血管の状態を確認します。 脈の触知だけでなく、カテーテル穿刺部の出血の有無や安静保持による廃用性症候群にも注意していきましょう。

カテ後に大泣きされました、どうしたらよいのですか

大泣きして困る理由は何かを確認しましょう。カテーテル検査後、麻酔から覚醒する過程で、半覚醒となり意識が混乱した状態になって泣くことがあります。また、痛みや空腹感・不快感などをうまく伝えることができずに泣いていることもあります。バイタルサインの変化やカテ部の出血の有無など確認し、状況に応じて、安静度の緩和・鎮静薬の投与などを検討していけるとよいと思います。

ミルク摂取量制限のある乳児が空腹いて泣いてしまって困ります。どうやってなだめてますか

治療のために水分制限を増やせないことがあるので、これは困りますよね。摂取量に制限があるのであれば、回数・一回量・時間帯などを検討することもひとつの方法かと思います。注入しているのであれば注入時間の検討もできます。 それ以外には、おしゃぶりを使用したり、ホールディングなどのポジショニングを工夫することなどが効果的なことが多いように思います。また、術前後の厳しい水分制限によって啼泣が続き安静が保てず循環動態が不安定になる場合には、鎮静薬を使用することを医師と検討する必要があるかもしれません。

「この子は心臓病だから、絶対に点滴内に小さな気泡も入らないように注意してね」と言われました。理由は何でしょうか。

点滴内に気泡を入れないように注意するのは、先天性心疾患の患者さんに限らず、すべての患者さんに注意すべきことです。血管(静脈)内に空気塞栓ができてしまう可能性があるからです。血圧をモニタリングしたり動脈採血を容易にするための動脈ライン(Aライン、圧ラインといったりすることもあります)を作成するときは、ルート内に微細な気泡も混入することがないよう、細心の注意を払って、液の流れる先を上方に向けてラインを満たしながら、時には、ルートに振動を与えて(カンカンとたたいたりして)気泡を除去します。この理由は、静脈塞栓よりも動脈塞栓の方がはるかに身体に与えるリスクが高いからです。静脈では通常は各臓器へ輸液が流れる前にまず肺を通過するので、多少の空気はそこで吸収されると言われています。それに対して動脈内の塞栓は、即、各臓器への血流遮断の要因となり得ます。最もリスクが高いものが脳梗塞のような状態ですが、塞栓部位によっては腎血流低下、四肢末梢への血流低下など、どこでも血流低下を起こし得ます。先天性心疾患の子どもの場合、静脈血と動脈血がmixing(交流)されていることが多いため、点滴が挿入されているのが静脈であっても、静脈に混入した気泡が肺を通過することなくmixing部位で動脈へ流れてしまうことがあります。そのため、静脈ラインの管理に関しても動脈ラインと同様に厳重な注意を払う必要があります。

心配するお母さんへの対応に自信がありません

お母さんに、何故、何が心配なのかを先入観なく聴いてみてはどうでしょうか。まずは心配な気持ちを受け止めることで、お母さんも少し気持ちが楽になるかもしれません。お母さんの強い心配や不安を解消する方法が思いつかないことも当然あります。その時には、関わっているスタッフと情報共有して、チームで対応を検討してもよいと思います。

先輩に子どものVSD(心室中隔欠損症)の看護を調べておくように言われました。ポイントは何ですか

VSDの看護のポイントは、こちら(web教材 心室中隔欠損症の子どものアセスメント)を参照してください。


  

新生児の血圧やSPO2を左右上肢・下肢で測定するのはなぜですか

基本的に、診断されていない先天性心疾患の場合には、左右上肢とどちらかの下肢の血圧測定は必要です。
 心室から大動脈を介して四肢への血流が流れますが、そのどこかで狭窄があれば、その狭窄より下の部位では血圧は低下し、狭窄より手前では血圧は上昇します。動脈は、左心室から出る上行大動脈が3つの枝(腕頭動脈・左総頚動脈・左鎖骨下動脈)に分岐した後、下大動脈となり全身へ血流を送っています。先天性心疾患の子どもは、生命を維持するために大動脈と肺動脈をバイパスする動脈管という血管が残存していることがあり、その場合には動脈管の前後での血圧も変わります。先天性心疾患に関わらず、血管病変に気付くためにも、上下肢の血圧を測定してみることは大事なことですね。またSpO2は、動脈管を介した静脈血と左室から駆出される動脈血流の混合の状態により値が変わります。例えば大動脈縮窄複合の場合で動脈管が大きく開存している場合は上下肢の血圧差はないこともありますが、SpO2は上肢で高く(>95%)、下肢で低い(<85%)ということになります。

脈圧が狭くなる、広がる、ということはどういうことですか

「脈圧」とは、収縮期血圧(心臓が収縮するときに血液を押し出して大動脈にかかる圧力)と拡張期血圧(心臓が拡張している時の大動脈の圧)の差です。小児の場合は血管の硬化による収縮期圧・拡張期圧の上昇は考えにくいですね。拡張期圧が下がる(収縮期圧との差が広がるので「脈圧は上がる」)のであればAR(大動脈弁閉鎖不全)の増悪(拡張期に大動脈にかかるはずの圧が、弁の閉鎖不全によって左心室に戻る)、敗血症で末梢血管が拡張している状態も考えられます。収縮期血圧が低下している時には(拡張期も一緒に低下しなければ、脈圧は狭くなる)、大動脈狭窄、血管内の血液量が不足する出血や脱水、ショック状態による循環不全などが考えられます。脈圧が狭いということは、心臓が収縮している時の圧力と拡張している時の圧力の差が少ない=身体に必要な血液が送り出せていないと認識して、緊急事態と捉えて行動しましょう。

新生児に酸素投与をしてはいけないと言われました。どうしてですか

どんな状況の時に酸素を使ってはいけないと言われたのでしょうか。先天性心疾患でSPO2が低い場合や呼吸困難を生じている時には低濃度酸素(40%以下)の投与は通常許容されます。ただし、高濃度酸素(100%)の投与はよく病態を理解して投与する必要があります。先天性心疾患の子どもへの高濃度酸素の投与が禁忌になる場合は2つあります。①胎児期にはあって出生後になくなる動脈管という血管が生命を守るために必須な状況な時(動脈管依存性先天性心疾患)と、②肺血流増加型の先天性心疾患の場合です。 ①では、胎児循環の理解が必要です(※web教材「心臓病の基本のき」をご参照ください)。胎児は、お母さんの胎盤からの血液によって換気に変わる酸素と二酸化炭素の交換を行っています。そのため、動脈管という大動脈と肺動脈のバイパスがあります。この動脈管は、出生後に赤ちゃんが自分で呼吸をして肺呼吸を始める(酸素分圧が上昇する)ことで閉鎖する仕組みになっているのですが、どこかの血管が閉塞している場合には、このバイパスが生命をつなぐ役割をはたしている可能性もあるのです。動脈管を開存させておく必要がある先天性心疾患(肺動脈閉鎖、大動脈離断、大動脈狭窄など)の場合には、酸素は使用せず動脈管を開存し続けるように努める必要があります。②の場合、酸素は肺血管抵抗を下げて、肺血流を増加させる作用があるために、使用しない方がよいとされています。

生後5日の新生児の沐浴をしていました。右手でSPO2の測定をしていたので、終了後、左手に付け替えたところ、先輩から右手で測ってと言われました。なぜですか

新生児期では右上肢でSpO2を測定するように言われることも多いと思います。これは、新生児期には動脈管を介しての血液の流れが大動脈→肺動脈となることと、肺動脈→大動脈となることがあり、動脈管より下位の血液の酸素飽和度が変化するため、それに左右されない腕頭動脈(動脈から3本に分かれている3本の枝の最初にある枝で、右鎖骨下動脈と右総頚動脈に分岐する)の酸素飽和度を測定して、脳への酸素化状況を把握するためです。 右手と左手でSPO2が異なる先天性心疾患の場合は、一番酸素飽和度が高くなる場合が多い右手にSPO2をつけてモニタリングすることが重要です。 ただし、右手と左手のSPO2が変わらない先天性心疾患の場合は、必ず右手でなければならないと言うことはありません。実際、右手に点滴などが入っている時は、SPO2測定が困難なことも多く、その場合、左手や下肢でモニタリングすることは日常臨床でもよく行われることです。大切なのは、右手と左手でSPO2が異なる疾患または病態かどうかを事前にきちんと理解把握しておくことです。

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